2005年1月 | ||
1月4日 NHKニューイヤーオペラコンサート(NHKホール) 物心ついた頃からあったような気がする、「ニューイヤーオペラコンサート」。 その時々のオペラのスター歌手が出演する、オペラ版紅白のような印象がある。 いつもテレビで見ていた。会場に行くのははじめて。 で、これって、前はたしか抽選かなんかでお客を集めていたんですよね。たしか無料で。 今は有料、で、前は1月3日だけだったけれど、今は3日と4日の2日間やっている。 いつから変わったのかな。勉強不足ですみません。 今年の趣向は、「ドイツ・オーストリア 深遠な音楽の森」なんだそうで、 ドイツ・オペラのオンパレード。 去年はイタリア・オペラだったらしい。 今年のハイライトは、後半に上演されたワーグナーの「タンホイザー」、第2幕。 前半はドイツ・オペラの有名アリアを、歌手が歌いあうという趣向だったのだが。 いやはや歌手の調子がどうも今ひとつの人が多く、ちょっとびっくり&がっかり。 佐藤美枝子さん(「魔笛」の夜の女王のアリア)など、どうしたの?という感じでした。 中でひとり気を吐いたのが、韓国のテノール、チョン・イグン。 昨年9月、藤原歌劇団の「カルメン」に登場、なかなかよかったのだが、今日は本当にひとり気を吐いた。 後半のタンホイザーでは、ヘルマンの長谷川顕(バス)に瞠目。 新国のワーグナーでもよかったけれど、本当に日本人離れしたワーグナー歌手だなあと再認識させられた。 エリザベート役の横山恵子も、美声と安定したテクニックで好演。 今回出演の女性歌手のなかでは、一番だったのではないだろうか。 このコンサート、今年で48回目になるそうだが、そろそろ役目を終えたのかもしれない。 全体の水準も今ひとつだったし(前はそれこそ以前の紅白と同じで、歌手が晴れ舞台だと張り切っていたような気がする)、 会場も、3階席など空席が目立った。 とにかく今の日本は、有名歌手は次々と来日するし、 名作オペラの上演や、オペラアリアのリサイタルも以前とは比較にならないくらい増えていて、 聴衆の耳も肥えている。 NHKホールのようなハコで、オペラ名アリア集のような類のコンサートは、これから難しくなるのではないだろうか。 |
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1月9日 ソフィア国立オペレッタ劇場公演「こうもり」(さいたま市文化センター) ブルガリアのソフィアにある、国立オペレッタ劇場の来日公演。 「こうもり」「メリー・ウィドウ」のオペレッタ人気2作をひっさげ、全国を回る。 先月のワルシャワのように、東欧圏の劇場は当たり外れがあるので、まあ様子見のつもりで。 これはなかなか、コストパフォーマンスの点では良好な公演でした。 装置もそれなりに工夫して豪華に見せているし(とくに第2幕)、 全体的に、衣装もふくめややレビュー的な装置、演出だが、まあオペレッタ劇場だから親しみやすくていいかもしれない。 オルロフスキー伯爵に道化師がくっついて歩く、なんていうのも初めて見た。 第3幕の冒頭で牢番が2人でてきたのも初めて。 中身もだいぶ、この劇場の慣習版?らしいものになっていて、ウィーンあたりで観るのとはかなり違っていた。 第3幕のアデーレのアリアがいきなり冒頭に出てきたり、 アイゼンシュタインが牢屋に入るわけが密猟だったり(よく観るのは公務執行妨害?公務員とのけんかさわぎ) で、その密猟のくだりをかなり芝居で説明して笑わせる。 ところどころに日本語も入れて、サービス精神旺盛。 下手な(失礼)バレエが多かったのはちょっとげんなりでしたが。 歌手は、力量があったのはアデーレ役のペトロヴァ。 コロラトゥーラもきれいに決まり、声量も申し分なし。 ロザリンデのアルセノヴァ、アイゼンシュタインのアポストロフは、容姿、演技力は高得点だったが、 歌で魅了する、というのにはちょっと及ばないだろうか。 アルフレート役のピロゾフ、典型的なのどに詰まったような?イタリア風リリック・テナー、 この歌劇団ではちょっと珍しいタイプかも。 全般的に、楽しませるという点では満足のいく公演だった。 |
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1月11日 プラハ国立歌劇場公演「魔笛」(文化村オーチャードホール) 2001年にも来日したプラハ国立歌劇場、今回は「魔笛」「こうもり」の2演目。 お正月らしい演目の2本立てで全国巡演。 全体的にまずまずではあったのですが。歌手もうまい人も一部いたし、 舞台もシンプルだけれどそれらしくまとまっていた。 歌手でよかったのは、王子さまタミーノのブリツェインと(ルックス、声ともリリック)、 パミーナのシャトゥロヴァー(鈴のようないい声、テクニックも確実)、 鳴り物入りだった夜の女王のジャニーヌ・テームスはテクニックに少々難あり。声はきれいなのだが。 気になったのはまずオケ。ほとんど連日の公演で少し疲れ気味? ホールのせいもあるだろうけれど、音が弱いのが気になった。 指揮者(スヴァロフスキー)のコントロールも今ひとつ。モーツァルトの音楽特有の間の取り方も雑で、 音楽にめりはりを欠いた。 あとこの劇場で弱いのは合唱。2001年の「アイーダ」の時も感じたが、その印象は変わらず。 アンサンブルもにもほころびが散見、武士たちの二重唱などは苦しいものがあった。 モノスタトスのフルシュカも弱く、やはり脇役の質までは問えないのが、一流歌劇場と違うところかもしれない。 |
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1月15日 東京オペラ・プロデュース定期公演「とてつもない誤解」(新国立劇場中劇場) ロッシーニ初期のオペラ・ブッファ、本格舞台での日本初演。 東京オペラ・プロデュースという団体は、このような意欲的なプロジェクトが多く、 好演することもよくあるので、期待しました。 これは期待通り。いやそれ以上かも。 旧東欧系の「コストパフォーマンス良好」のオペラが花盛りだけれど、 本当にコストパフォーマンスがいいのはこういう公演かも。 歌手の水準もいいし、演出(馬場紀雄)も、細かいけれど自然な動きをちりばめ、 音楽を妨げない芝居づくりで、ロッシーニの音楽を生かしていた。 このオペラは、ロッシーニの2作目のオペラだそうだけれど、 もうほんとに芯までロッシーニ!という感じ。 気のきいた、楽しい、そして美しい旋律の連発。 以前やはり初期の「愛の女庭師」を見たモーツァルトももちろん天才だが、 モーツァルトはもっと陰影が濃い感じで、ロッシーニはあくまで、楽しませることが上手という印象を受けた。 歌手は、エルネスティーナの宮本彩音もよかったが、 ガンベロット役の杉野正隆が、歌、演技ともに達者ぶりを印象付けた。 |
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1月21日 藤原歌劇団公演「ラ・トラヴィアータ」(文化村オーチャードホール) 新春恒例、藤原歌劇団の「トラヴィアータ」(椿姫)。 もう13年も続いているそうで、すごいことだな、と思う反面、集客の点で難しいだろうな、とも思う。 今回、欧米で活躍しているエヴァ・メイが出るので、それだけでも魅力的だと思ったのだが、 3日間公演の初日で、残念ながら空席が目立った。 あまりオペラ公演で見かけない着飾った若者の大グループあり、 専門学校かなんかの謝恩会帰り? ロビーで、チケットを売らなくちゃ、なんてぼやいている若者も見かけた。 「椿姫」は上演回数自体が多すぎますよね。少し整理、というわけにはいかないのかな。 公演自体は満足のいくものだったが、その大半はやはりヒロインのエヴァ・メイのおかげ。 背が高くて知的で、ヴィオレッタにしてはかなり理知的かな、という感じもするが、れ 舞台ばえは十分。 そして何よりうまい!声がずばぬけて美しい(リリコ・コロラトゥーラ)上に、うまいのだから、 なかなかこれだけの歌手はいないと思う。 10月に聞いて感動したアンドレア・ロスト以上かも。 声の美しさ、という点でいえば、美しさにヴァリエーションがある。多彩な声を操れる。 そして本当に表情がゆたか。 歌わない、せりふに近い部分なども本当に感情がこめられていて、それが伝わってきた。 アルフレードに別れを告げる場面、第3幕の幕切れの「不思議だわ」など、 いずれも真に迫っていた。 リリコ・コロラトゥーラだから高い方が得意なのだけれど、 第3幕で、「こんなに若くして死ぬなんて」という絶叫も聴かせてくれた。 アルフレードは佐野茂宏。相変わらずの美声だが、 ちょっと風邪気味で、途中で高音が出なくなったりしていたのが残念。 ジェルモンは堀内康雄。よく歌いこんでいる感じだけれど、ちょっと工夫しすぎ? もう少し自然さがあるともっとよかった。 指揮(広上淳一)は、想像したより繊細。 ピアニシモを美しく聴かせてくれた。 オケの刻む弱音の3拍子が、こんなに心に残ったのははじめて。 よく歌を聴いて、歌手を気持ちよく歌わせているのにも好感が持てた。 演出(コディニョーラ)は、2003年の再演だが、 ほどよく豪華、ほどよく退廃的で、趣味のいい、楽しめる舞台でした。 最近聴いた「椿姫」のなかではぴか一かも。少なくとも新国のより5倍くらいよかった。 新国でこのメンバーでやったらぜったい満員。新国でこのくらいのレベルの公演をやるべきです。 |
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1月26日 新国立劇場公演「マクベス」(新国立劇場) 1月の新国は、去年5月にプレミエだった野田秀樹演出に「マクベス」。 ちょっと間が短い感じもするが・・・ 今回は、指揮のフリッツァ(去年ジェノヴァの「ナブッコ」で圧倒された)と、 マクベス役のカルロス・アルバレス(ウィーンで活躍するバリトン)に惹かれて。 いやこの2人は期待通りでした。 アルバレスはさすがの美声、貫禄十分。 幅の広い表現力、声も自在に操れるし、 危なげなく聴かせてくれた。 フリッツアもほんとよかった。だんだん調子が出てきて、ドライブがよくかかり、 メリハリが利いていて、 ヴェルディの初期はぴったり。 第1幕の幕切れ、そして最後の幕切れなど、盛り上げ方がすごい。 それと特筆すべきは「間」の取り方のうまさ。絶妙。 これがなかなか、一般の?指揮者ではできないんですよ。もたついてしまって。 歌手も歌いやすそうだった。「間」を十分とるのも関係があるのでは。 指揮姿もとても美しく、背後から見とれてしまった。わかりやすい指揮なのではないだろうか。 このイタリア・オペラをしょって立つ指揮者になると思う。オーレン以上では。 マクベス夫人のゲオルギーナ・ルカーチ(去年と同じ)はまずまず。 迫力ある強い声は健在。ちょっと不安定なところもなきにしも、だけれど、まあ難役だから・・ あとはマルコム役の内山信吾がよかった。 演出は去年と同じだが、細かい動きが少し減ったようで、聞かせどころの2重唱で、 後ろで骸骨がついて歩いたりする目ざわりさがなくなったのはよかった。 新国、いつもこれくらいのレベルでイタリア・オペラをやってくれるといいのだけれど。 でないと他の国内の団体に顔が立たないのではないでしょうか。 |
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1月27日 藤原真理チェロ・リサイタル(東京都庭園美術館) 庭園美術館で3年くらい前からやっている、サロン・コンサートのシリーズのひとつ。 アールヌーヴォの建築として有名な庭園美術館を会場に、終演後は演奏家と一緒にお茶が飲めるという趣向。 曲目もポピュラーで、バッハの無伴奏チェロ組曲の1、6番、あと2番のプレリュードという内容。 コンサートの一番の利点は、演奏家と至近距離にいられること。 やはりバッハのあの無伴奏が、ごく近くで聴けるというのはなんとも贅沢。 音響的にはちょっとデッドではあるけれど・・・ 藤原さんのチェロはさっぱり系なので、小さい空間でも聴きやすい。 演奏者が聴衆に向かって話しかけるのもいい感じ。 コストパフォーマンス的にはちょっと難?があるかも。 音楽が実質1時間で、クッキー&お茶で5000円というのはどうでしょうか。 小さな空間だから、沢山入れないということはわかりますが・・・ デメルのケーキでもつけば違うかな???(食いしん坊ですみません) |
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1月29日 鈴木雅明チェンバロ・リサイタル(トッパンホール) バッハの大家鈴木雅明氏、久しぶりのチェンバロ・リサイタルは、平均律第2巻全曲という大部なもの。 ホールは超満員、立ち見が出る熱気。すごいですね。 開始前に鈴木氏の、楽譜に関する説明があり、 まだ出版されていない、富田庸さんの最新の研究に基づいた楽譜で演奏するというコメントがあった。 現在出回っている楽譜を持ってきていたひとあり、かなり違いに気づいたよう、すごいですね。 推進力の魅力。 鈴木氏のバッハにはその感触がある。BCJしかり。 一人の場合はよけいそれが前面に出る印象あり。 ところどころ、走っていって前のめり気味になるときもあるのだが。 (おもに前奏曲だろうか)。 フーガは手のうちという感じ。言い方は悪いが、完全にフーガに淫している。 それが鈴木氏らしいといえる点のひとつなのでは。 フーガの稜線がこんなに浮き上がってくる演奏はなかなかない。 とくに20番、21番あたりの美しさは絶句ものだった。 プログラムに楽器についての解説が欲しかった。かなり重厚な響きだったので。 たぶん氏のチェンバロだと思うけれど、まあひとこと説明が欲しいですよね。 聴衆、男性率高し!さすがというべきか。 休憩時間のトイレの行列が、男性のほうが長蛇になっていて驚いた。 めったにあることではないですよね。 |
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今月のベストワン 新国立劇場「マクベス」 |